【スタニスラフスキー・システム】演技に悩む音大生へ

音楽に答えはない!いろんな答えがあるからこそ楽しい

オペラ歌手。
もちろん歌がとても大切ですが、それと同時に演技をする、演じるという部分も、ものすごく大切な要素ですよね。

私は昔、オペラの授業の際、演技を考える時に、まず「動線」を考えていました。

動線とは立ち位置から舞台上を移動するラインのことで、簡単に言ってしまえば「私はこの瞬間に右に行く、左に動く」などと言う、演技プランのことです。

演出家からはよく、大げさに動きすぎているなどと言われることも多く、どのように演技をすればいいのか、全く分かりませんでした。

ですが、イタリア人のダリオ・ポニッスィさんに出会ってから、私の演技はガラリと変わり、人からも演技が上手いね、などと言われることが多くなり、自分で自分の事を大根役者だと思わずにすむようになりました。

彼が教えてくれたことで、ものすごく心に残って、今も大切にしている事があります。

「本当に大切なのは、どう動くかではなく、どう思っているか、どういう感情なのか?だよ。」

「本当に心の底からその役の感情を想い描いているならば、どんな動きをしたって良いんだよ。間違いなど存在しないんだ。なぜなら、お客さんは違和感を全く感じないからね。」

「大切なことは、右に動くか、左に動くかではなくて、なぜ右に動こうと思っているのか?どういう気持ちで左に動こうと思っているのか?という感情を心の中に思い描くことなんだよ。」

何年も経っているので、言葉としてはうろ覚えですが、本質としてはそういったことを教えてくださったと思います。

それからは楽譜を読む時に、その瞬間の役がどういう気持ちなのかを考えることだけに、注力してきました。

右に動こうが、左に動こうが本当はどっちでも良いのです。
どちらもの正解!
音楽とは感じることが大事。
オペラでは、その役になりきれれば自然と動きも出てくるのです。

右に動く人もいるでしょう。
左に動く人もいるでしょう。
それはどちらが正解ということではなくその人が感じたことが正解なのです。

昔ならば、まず右手を上げて振り返る仕草をする…など事細かに自分の動きを決めていましたが、ダリオ・ポニッスィさんに教えてもらって以降は、この時に「私は彼に会いたいと思っている」等という気持ちだけを感じて、自分の体の動きは、その瞬間に勝手に出てきたもので動くことにしました。

それ以降は、演技が上手いと言われるようになりました。

イタリアでのオペラ授業「スタニスラフスキー・システム」

そして今イタリアの音楽院で必修科目として演技の授業を受けています。

スタニスラフスキーメソッドにのっとって、授業が進められていっているのですが、皆さん、スタニスラフスキー・システムをご存知でしょうか?

スタニスラフスキー・システとは

ダリオ・ポニッスィさんに教えていただいた時には、初めて知る事ばかりで目からウロコでしたが、彼に教えてもらったことと、このメソッドは通ずるものがあるな、と感じています。

私は演技に興味があり、色々と日本で本なども読み漁ってきた方だと思うのですが、恥ずかしながら、イタリアに来て初めてこの単語を聞きました。

ただ世界的にはとても有名なメソッドらしく、俳優を目指している人は基本的に学ぶメソッドだとのことです。

イタリアで知り合ったトルコ人のバリトン歌手の友達は、お父さんが俳優をしているそうなのですが、そのお父さんも昔このメソッドを習ったそうです。
彼が言うには、初心者が演技とはどういうものかをつかむためには、とても有意義なメソッドだけれど、上級者やプロフェッショナルが使い続けると、あまり良くないという話をしていました。

(あまりにも役になりきってしまうため、日常生活もその役として生活することになり、そのため精神に影響が出たりなど、いろいろな問題も起こったりしているそうで、現代の俳優業界では、メソッド反対派の方もいらっしゃるとの事です。)

もちろんオペラの中では人を殺したりする場面もありますし、気が狂ってしまう役もありますし、そういう意味で信じ込み続ける事の危険性というものが存在するのは、なんとなくわかります。

演技派のオペラ歌手の知人が「稽古期間中、だんだんと自分の性格が役に寄ってきてしまう」と言っていることがありました。
普段しないような暴力的な行動を、何故かしてしまったり。
また「恋人役をやっている内に、相手がどんなにブサイクで歳が離れてるおばさんだったとしても、本番中には本気で恋をしてしまう。」と話してくれた事もありました。

危険性があることは想像出来ますが、ただ、もし日常生活と舞台をきちんと切り分けることができるのであれば、とても有意義なメソッドである事は間違いありません。

内容の一例としては、
【Magic if、マジックイフ。魔法のもしも】
という考え方です。

簡単に説明するならば、

小さい子供が例えばイスに座ってゴーカートごっこをしていたとします。

「ブーンブーン!すっごい早いぞー!キキー!急ブレーキだー!!」

なんて喋りながら、一心不乱に体を動かしているとします。

それを見た母親は、息子がただの椅子ではなく車の座席に座り、運転しているように感じるでしょう。

本当はただの椅子にも関わらずです。

誰かに見せる事を意識するのではなく、「もしも私が〇〇なら…」と信じる、信じこむ事で、勝手に身体は動き、それを見たお客さんもまた、その状況を信じはじめてしまう…というメソッドです。

大人が本気で、子供の頃と同じくらい純粋で素直な気持ちで、「もしも」の状況を信じこむ。(〇〇ごっこ遊びを本気でする…)といった感じでしょうか。

今のところ、私にはこのメソッドはとても合っているみたいです。

例えば本番、毎回とても緊張するのですが、この授業を受けてからは、舞台に立つ直前に、歌うオペラアリアの役の気持ち、その時の状況を信じ込む、という作業しています。

そうすると、私は私ではなくなり、そのオペラの役になるので、「緊張している私」という存在はどこかに消えてしまいます。

この方法でコンサートをしたあとは、お客様からは「あなたのこの曲の解釈、役としての表現がとても好きだったわ」などと声をかけていただけることが多くなりました。

舞台のあがり症で悩んでいる方にも、効果のある方法かもしれませんね。

スタニスラフスキーと検索すると日本語の本もたくさん出てきました。

演技に悩んでいる方はぜひ参考にしてみてくださいね♪

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